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  F1今昔物語 2010年 ダイジェスト

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 ■ シーズン前
 3月12日から11月14日の間、全19戦で争われる。伝統のフランスGPは開催されないままでカナダGPが復活し、韓国GPが初開催となる。
 前年からFIAとFOTAのあいだで予算制限の話し合いが繰り返し行われていた。一時は業界分裂の危機に遭いつつも、新しいコンコルド協定がまとめられ、結果、多数のチームが今季のエントリーを申請した。加えてBMWとトヨタの撤退もあり、最終的にロータス、HRT、ヴァージンの3チームが新たな参戦を、ザウバーが5年ぶりの復帰を果たした。また、自動車メーカー撤退の流れに逆行し、メルセデスがブラウンGPを買収する形で、1955年以来55年ぶりにF1に復帰することも決まった。今季は12チーム24台で争われる。
 こうした動きを受けて、レギュレーション等の変更も多数行われた。まずポイント制度が見直され、1位から10位まで「25、18、15、12、10、8、6、4、2、1」と変わった。次にレース中の給油の禁止がある。1993年以来の、フルタンクで全車重量に差がないレースとなる。また予選の燃料搭載量も気にする必要が無くなり、空タンクで純粋な速さが競われる(ただしタイヤのソフト・ハードによる違いは以前のまま)。他にはフロントタイヤ幅が若干狭くなった。
 ブリジストンは今季限りでの撤退が決まっている。
 ドライバーの移籍・復帰の面でも話題には事欠かない。まず、M.シューマッハが2006年以来4年ぶりにメルセデスGPから復帰する話しが、大きな驚きをもって迎えられた。チャンピオンのジェンソン・バトンがブラウンGPからマクラーレンに移籍し、ハミルトンと共にチャンピオン同士の体制となった。他、メルセデスやフェラーリ、レッドブルなどにおいて、チームメイト間の対決が楽しみな組み合わせが見られる。
 開幕前のテストでは特に飛び抜けた存在は見当たらず、シーズン当初は混戦となりそうな予感が漂う。
チーム/マシン名 エンジン ドライバー 前年は? タイヤ
マクラーレン MP4/25 メルセデス 1、ジェンソン・バトン
2、ルイス・ハミルトン
ブラウンGP
残留
BS
メルセデスGP W01 メルセデス 3、ミハエル・シューマッハ
4、ニコ・ロズベルグ
復帰
ウィリアムズ
BS
レッドブル RB6 ルノー 5、セバスチャン・ベッテル
6、マーク・ウェバー
残留
残留
BS
フェラーリ F10 フェラーリ 7、フェリペ・マッサ
8、フェルナンド・アロンソ
残留
ルノー
BS
ウィリアムズ FW32 コスワース 9、ルーベンス・バリチェロ
10、ニコ・ヒュルケンベルグ
ブラウンGP
新人
BS
ルノー R30 ルノー 11、ロバート・クビサ
12、ヴィタリー・ペトロフ
BMW
新人
BS
フォース・インディア VJM03 メルセデス 14、エイドリアン・スーティル
15、ヴィタントニオ・リウッツィ
残留
復帰
BS
トロ・ロッソ STR5 フェラーリ 16、セバスチャン・ブエミ
17、ハイメ・アルグエルスアリ
残留
残留
BS
ロータス T127 コスワース 18、ヤルノ・トゥルーリ
19、ヘイキ・コバライネン
トヨタ
マクラーレン
BS
HRT F110 コスワース 20、カルン・チャンドック
21、ブルーノ・セナ
新人
新人
BS
BMWザウバー C29 フェラーリ 22、ペドロ・デ・ラ・ロサ
23、小林可夢偉
復帰
新人
BS
ヴァージン VR-01 コスワース 24、ティモ・グロック
25、ルーカス・ディ・グラッシ
トヨタ
新人
BS

 ■ 3月14日 第1戦 バーレーン
 HRTは3月4日に体制が発表され、本戦がマシンのシェイクダウンという慌ただしさである。バーレーン・インターナショナルサーキットには改修が施され、スパ・フランコルシャンに次ぐ長距離サーキットに変わった。
 予選では新規参入組が揃ってQ1落ちした。上位はレッドブル、フェラーリ、マクラーレン、メルセデスの新しい4強が占めた。その中でもベッテルがPPを獲得した。
 気温35度、路面温度40度の決勝。フェラーリの2台がエンジンを交換した(今季は9基目からの交換でペナルティが科される)。HRTの2台がピットスタートを選んだ。スタートでアロンソがマッサの前に出た。1コーナーでウェバーが大きな白煙をあげ、視界を失ったクビサとスーティルが堪らず接触した。ベッテル、アロンソ、マッサ、N.ロズベルグ、ハミルトン、M.シューマッハ、ウェバー、バトン、リウッツィ、バリチェロの順番が固まった。
 2周目、チャンドックがリタイヤ。3周目、ヒュルケンベルグがスピン(生還する)。ディ・グラッシがリタイヤ。12周目、12位走行の小林可夢偉がリタイヤ。以降、ペトロフ、グロック、B.セナ、デ・ラ・ロサと、新人や新チームの面々が次々とリタイヤした。
 単調に進むレースは、17周目に上位陣で初めてハミルトンとM.シューマッハがピットインしたことで動いた。以降、各上位勢がピットインする。ハミルトンがN.ロズベルグの、バトンがウェバーの前に出た。ベッテル、アロンソ、マッサ、ハミルトン、N.ロズベルグ、M.シューマッハ、バトン、ウェバー、リウッツィ、バリチェロ。フェラーリ勢が少しずつベッテルとの差を縮めていく。
 34周目、ベッテルが突然失速した。スパークプラグの破損から排気管がおかしくなったらしい。フェラーリ勢が追い抜いてワンツー体制を築いた。38周目、ハミルトンもベッテルの前に立った。同じ頃、M.シューマッハ、バトン、ウェバーが1秒ずつの距離になった。
 ベッテルは故障を抱えながらの走りを身につけ、N.ロズベルグの追撃を抑えた。そのままの順位でレースが終わった。アロンソが移籍初戦を制した。給油禁止のルールは、タイヤやその交換の技術が進んだ現在では、レースを極めて単調なものにすることが明らかになり、多くの人がこのルールへの失望を口にしている。

 ■ 3月28日 第2戦 オーストラリア
 レッドブルがフロントロー。ハミルトンがQ2落ちした。
 決勝前に降雨があり、全車インターミディエイト・タイヤを履いた。トゥルーリとヴァージンの2台がピットスタート。スタート1コーナーでバトンとアロンソが接触し、アロンソがスピン。M.シューマッハにもぶつかった。後者2台が後方に沈んだ。マッサが好スタートで2番手に浮上した。後方では、小林可夢偉のマシンのフロントウイングが脱落し、激しくクラッシュ、ヒュルケンベルグを巻き込んでリタイヤとなった。セーフティーカー出動。トゥルーリはスタートできず、またブエミもリタイヤしている。ベッテル、マッサ、ウェバー、クビサ、N.ロズベルグ、バトン、ハミルトン、スーティル、バリチェロ、ペトロフ。
 5周目にレースが再開した。6周目、ウェバーがマッサをオーバーテイク。7周目、コースが乾いてきたため、バトンがドライタイヤに履き換えた。しかし直後にコースオフ。4、5周の間に続々とタイヤ交換が行われた。10周目、スーティルがエンジントラブルでリタイヤ。13周目、ベッテル、バトン、クビサ、N.ロズベルグ、マッサ、ウェバー、ハミルトン、バリチェロ、デ・ラ・ロサ、アロンソという順番になった。アロンソやハミルトンが次々と追い抜きを見せて順位を上げていく。M.シューマッハも最後尾から追い上げている。
 16周目、マッサを追いかけるウェバーがコースオフ。続いてハミルトンに攻め立てられて再びコースオフした。22周目、ハミルトンがマッサをオーバーテイク。26周目、独走状態のベッテルがターン13でブレーキングに失敗、コースアウトしてリタイヤとなった。どうやらブレーキのトラブルらしい。27周目、ハミルトンはN.ロズベルグをも抜いた。この時点でバトン、クビサ、ハミルトン、N.ロズベルグ、マッサ、ウェバー、アロンソ、バリチェロ、リウッツィ、デ・ラ・ロサという順番。
 ハミルトンがクビサを激しく攻める。34〜35周目、ハミルトンやN.ロズベルグがタイヤ交換のためピットインした。バトンが独走。クビサ、マッサ、アロンソ、ハミルトン、ウェバー、N.ロズベルグ、リウッツィ、デ・ラ・ロサ、バリチェロと続く。ハミルトンがまた前との差を詰めていく。
 終盤、クビサ以下6台が数珠つなぎとなった。56周目、ハミルトンがアロンソを攻め立てる。そこにウェバーが追突した。ハミルトンは何とか復帰し、ウェバーはピットへ向かった。M.シューマッハも最後は執念で入賞圏内に浮上した。
 バトンの勝利で移籍組の連勝となった。振り返ると、序盤のタイヤ交換のみで走り切った者が上位に残った。50周以上もソフトタイヤで走り切ったことで、今後はアクシデントのないレースなら、もう1回ストップ作戦しか戦略がないのではないかと思われる。

 ■ 4月4日 第3戦 マレーシア
 予選開始に合わせて雨が降った。新人を始め何台ものコースオフが見られた。どんどん走りにくくなる路面状況に合わせて様子見を決め込んだアロンソ、マッサ、ハミルトンがQ1落ちし、バトンもQ2進出タイムを出したあとスピンしてグラベルに捕まる、という形で予選を終えた。Q3では、ただ一人ウェバーがインターミディエイトタイヤを装着してPPを奪った。小林可夢偉が9位。
 今季は昨年の大雨の影響でスタート時間が1時間早い。デ・ラ・ロサがエンジントラブルで決勝を欠場。スタートでベッテルが好スタート、一気に首位に立った。バリチェロがエンスト。ベッテル、ウェバー、N.ロズベルグ、クビサ、スーティル、M.シューマッハ、リウッツィ、ヒュルケンベルグ、ペトロフ、小林可夢偉。ポイントリーダーの4人は既に13位〜に並んでいる。
 ハミルトンが元気で5周ほどで10位まで追い上げた。7周目、ペトロフを抜いて9位。しかしペトロフも食い下がる。8周目、小林可夢偉にもエンジントラブルが発生し3戦連続リタイヤ。9周目、バトンがタイヤ交換(ハード→ソフト)。ここでM.シューマッハがマシントラブルでリタイヤ。12周目、続いてリウッツィもリタイヤ。ベッテル、ウェバー、N.ロズベルグ、クビサ、スーティル、ヒュルケンベルグ、ハミルトン、ペトロフ、アルグエルスアリ、ブエミ。
 レッドブル勢が速く、N.ロズベルグはついていけない。中団で続々とタイヤ交換が行われた。24周目、ウェバーのピット作業が若干手間取った。アロンソとハミルトンがピットに入らない。30周目、ベッテル*、ハミルトン、ウェバー*、N.ロズベルグ*、クビサ*、アロンソ、スーティル*、バトン*、マッサ*、ヒュルケンベルグ*(*印がタイヤ交換を終えた者)。ハミルトンがピットインしてバトンの前で復帰した。31周目、アルグエルスアリがヒュルケンベルグに対する見事なオーバーテイクで入賞圏内に浮上。34周目、ペトロフがリタイヤ。36周目、アロンソがピットイン。エンジン音がおかしく、トラブルを抱えているらしい。この時点で、ベッテル、ウェバー、N.ロズベルグ、クビサ、スーティル、ハミルトン、バトン、マッサ、アロンソ、アルグエルスアリという順番である。そろそろスコールが心配な時間になってきた。
 40周目頃、スーティルとハミルトン、バトンとマッサが火花を散らして争っている。44周目、マッサがバトンを抜き、続いてアロンソがバトンを襲う。レース終盤、バトンは長いステイントのためタイヤの調子が悪く、アロンソはトラブルを気にしながら、二人の争いが続く。残り2周という55周目、遂にアロンソのエンジンから白煙があがった。
 心配されたスコールはなかった。レッドブルが遂に持てる力を結果に結びつけ、ワンツーフィニッシュを飾った。ベッテルが元気に跳ねながら表彰台に立った。スーティルがハミルトンの猛攻をしのぎ切り、今季初入賞。アルグエルスアリとヒュルケンベルグも初入賞を果たした。

 ■ 4月18日 第4戦 中国
 レッドブルが4戦連続、うちベッテルが3回目のPP。
 スタート30分前に小雨が降り、微妙な路面状態となった。チャンドック、ディ・グラッシがピットスタートを選んだ。フォーメーションラップで一人雨用タイヤを履くグロックがスタートできない。スタートでアロンソがフライングが疑われるような発進で首位に立った。リウッツィがスピンし、小林可夢偉を巻き添えにリタイヤ。ブエミもリタイヤしている。セーフティーカー出動となり、何台かが真っ先にレインタイヤに交換した。翌周にもタイヤ交換が行われ、ハミルトンなどは強引にピットレーンに進路を変えさせられた。
 4周目にレースが再開した。N.ロズベルグ(ドライ)、バトン(ドライ)、クビサ(ドライ)、ペトロフ(ドライ)、デ・ラ・ロサ(ドライ)、コバライネン(ドライ)、アロンソ、スーティル、ウェバー、ベッテルの順。アロンソがすぐに数台を抜いた。安全走行中に雨足が変わり、ドライタイヤが有効な模様。よって再度ピットインする者が出始めた。ベッテルとハミルトンはピットレーンで激しく争いながら(レース後に注意を受けた)ドライタイヤに変更した。アロンソはやはりフライングを犯していて、ドライブスルーペナルティが科せられた。翌周にタイヤ交換のため、またピットインしさらに後退する。
 8周目、デ・ラ・ロサがリタイヤ。タイヤ交換も終わり、N.ロズベルグ、バトン、クビサ、ペトロフ、アルグエルスアリ、コバライネン、M.シューマッハ、スーティル、トゥルーリ、ウェバーという順位で落ち着いた。タイヤ交換をしなかった者が上位を走っていて、ペースは速いのだがタイヤ交換を繰り返したハミルトンとベッテルが中団でごぼう抜きを見せている。13周目の14コーナー、ベッテルがスーティルの隙をうかがい、その2台をハミルトンが見事に抜いていった。続いてM.シューマッハとのバトルが始まる。17周目、ハミルトンがラインを交差しながらM.シューマッハをオーバーテイク。M.シューマッハには続いてベッテルが迫り、翌周にオーバーテイク。この時点で、N.ロズベルグ、バトン、クビサ、ペトロフ、ハミルトン、ベッテル、M.シューマッハ、ウェバー、スーティル、アルグエルスアリという順位になっている。
 20周目、N.ロズベルグがスピンし、ペースが悪くなったところをバトンが抜いていった。同時に雨足が強まってきて、再び各マシンがピットに駆け込んだ。アロンソがピットレーン入り口付近でマッサを抜き、同時ピットインでの作業を先に行った。また、ピットに向かおうとするアルグエルスアリのFウイングが脱落した。この影響で22周目に2度目のSC出動。バトン、N.ロズベルグ、クビサ、ペトロフ、M.シューマッハ、ウェバー、ハミルトン、ベッテル、スーティル、アロンソ。ハミルトンとベッテルはまたもピットインのタイミングを誤り、順位を落とした。
 26周目、水しぶきがあがる路面状況でレース再開。するとハミルトンが再びごぼう抜きを見せた。ウェバーが接触を受けて後退した。M.シューマッハは再び抜かれ役を演じた。30周目、ハミルトンがクビサを抜いて3位にまで浮上。アロンソも自力で6位まで来た。バトン、N.ロズベルグ、ハミルトン、クビサ、ペトロフ、アロンソ、ベッテル、スーティル、M.シューマッハ、バリチェロの順位である。
 34周目頃、ハミルトンがN.ロズベルグの背後につけた。ここで再び雨脚が強まるという予報がピットに流れ、バトルでタイヤを消耗している面々から新しいレインタイヤに交換していった。この作業でN.ロズベルグが3位に後退した。バトン、ハミルトン、N.ロズベルグ、アロンソ、クビサ、ベッテル、ウェバー、M.シューマッハ、ペトロフ、アルグエルスアリ。
 アルグエルスアリが周回遅れ処理に失敗し、フロントウイングを壊して後退した。レース終盤、飛ばし過ぎたかハミルトンのタイヤが厳しい状態になった。51周目、M.シューマッハは新人のペトロフからも抜かれた。先頭バトンがオーバーランを見せた。ペトロフは続いてウェバーも攻略し、レース終盤におけるタイヤ・マネージメントの力を示した。M.シューマッハはやがてマッサからも抜かれ、きわめて印象の悪い週末となった。
 レースはマクラーレンがワンツーフィニッシュを遂げた。4戦で早くも3チーム目のワンツーフィニッシュである。バトンがまたしても雨中におけるタイヤ交換のタイミングで正解を選び、タイヤを上手く使いのけたのだった。ペトロフが初入賞。また、アイスランドで火山が噴火し、火山灰の影響でレース後の航空輸送が困難になっている。

 ■ 5月09日 第5戦 スペイン
 予選。またレッドブル勢が頭一つ抜け出た速さを見せ、今回はウェバーがPPの座についた。メルセデスはホイールベースを変えるほどの変更を行い、M.シューマッハがN.ロズベルグよりも速くなった。小林可夢偉が10位。ペトロフら4人がギアボックスの交換などで5グリッド降格処分となる。
 決勝スタート。小林可夢偉はクビサにしかけたところで大きく膨らみ15番手に落ちた。先頭はウェバーが守った。デ・ラ・ロサがパーツを踏んでパンクした。ブエミもピットへ向かった。ウェバー、ベッテル、ハミルトン、アロンソ、バトン、M.シューマッハ、マッサ、スーティル、アルグエルスアリ、クビサ。
 天候は晴れで波乱もなく、純粋な速さの争いによって淡々とレースが進む。ハミルトンはレッドブル勢についていっているが、アロンソ以下は次第に差が開いていく。15周目頃からピット作業がはじまった。N.ロスベルグがタイヤ装着前に発車して余計な時間を食った。17周目、M.シューマッハがピットアウト後のバトンをオーバーテイク。18周目、ハミルトンとベッテルがまたピットアウト直後に争いになり、ハミルトンが前に出た。ウェバー、ハミルトン、ベッテル、アロンソ、M.シューマッハ、バトン、マッサ、スーティル、クビサ、バリチェロ。M.シューマッハとバトンが延々と5、6位を争いはじめた。
 ウェバーが2位ハミルトンに10秒の差を築いて、独走状態に立った。ピットアウト後の危険な走行により、ブエミにドライブスルーペナルティが科された。アルグエルスアリには、チャンドックとの接触の影響でドライブスルーペナルティが科された。このように、周回遅れのマシンの追い抜きの際に小さなトラブルがいくつも発生したレースであった。
 レース終盤に入った。54周目、ベッテルがコースオフし謎のピットインを敢行、4位に落ちた。どうもブレーキを損傷したらしい。65周目、2位のハミルトンもまさかのクラッシュ! 左フロントタイヤがパンクしたのであった。
 ウェバーが先頭を一度も譲ることなくチェッカーを受けた。カタロニアのスペインGPは10年連続でポール・トゥ・ウィンが続いている。

 ■ 5月16日 第6戦 モナコ
 土曜フリー走行でアロンソがクラッシュを喫し、予選を欠場した。決勝はピットスタートとなる。すっかり恒例となったレッドブルのPP争いは、またウェバーに軍配が上がった。それからクビサの2位が光る。それから、D.ヒルが決勝レースのスチュワードを務めるということで話題となった。
 決勝スタート。クビサがホイールスピンを起こし、ベッテルが1コーナーのインに先に飛び込んだ。トンネル出口付近でヒュルケンベルグがクラッシュし、セーフティーカーが出動する事態となった。アロンソがここでタイヤ交換のためのピットインを行った。残り77周を走りきり、他者がピットインする隙に上位に浮上しようという、極端な戦略である。ウェバー、ベッテル、クビサ、マッサ、ハミルトン、バリチェロ、M.シューマッハ、N.ロズベルグ、リウッツィ、スーティル。
 3周目、バトンが白煙を上げながらリタイヤ。スタッフがラジエターのカバーを取り外し忘れる、という人的ミスからであった。7周目にレースが再開、ウェバーが5、6周で下位に3.6秒の差を築きあげた。最下位からアロンソが追い上げを開始する。
 20周頃、上位陣のタイヤ交換が始まった。ウェバーとベッテルの差は約9秒にまで広がっている。24〜28周の内にザウバー勢がトラブルでマシンを止めた。タイヤ交換が終わった30周目、ウェバー、ベッテル、クビサ、マッサ、ハミルトン、アロンソ、M.シューマッハ、N.ロズベルグ、スーティル、バリチェロという順番になった。
 32周目、リバージュ付近でバリチェロがスピンからクラッシュした。この、ウィリアムズ勢のクラッシュは共にマシントラブルによるものらしい。再びSCが出動し、差がキャンセルされた。34周目、すぐにレースが再開された。順位に変動はない。44周目、3コーナー付近のマンホールの蓋が外れたとのことで3回目のSC出動が起き、また差がキャンセルされた。そしてすぐにレース再開。レース再開のたびにベッテルはウェバーについてゆけない。クビサはベッテルから1秒差でついていっている。
 こう着状態のままレースは終盤へ。74周目、最後尾のチャンドックとトゥルーリが接触、マシンが乗り上げるほどになった。本日4回目のSC出動。ペトロフがマシンを降りた。最終周、SCが役目を終えてピットに戻った。最終周の最終コーナーの部分だけレース再開、、、となるのだろうか? そしてM.シューマッハがアロンソにしかけ、オーバーテイクした。
 ウェバーが全周回1位の連勝でポイントランキングでもトップに浮上した。レース後、M.シューマッハの最後の追い抜きは許されないものとの判断が下り、20秒のペナルティが科された。密集状態でのペナルティのため彼は得点圏外へ転落してしまった。この裁定には当然D.ヒルが絡んでいるため、過去の因縁との関係が少し話題になった。

 ■ 5月30日 第7戦 トルコ
 予選。小林可夢偉が再びQ3に進出、ミスのあったアロンソがおかげでQ2落ちした。ベッテルのマシンにトラブルが生じ、ウェバーがまたPP。ハミルトンが2位。
 決勝スタート。ディ・グラッシがピットスタートを選んだ。ベッテルがスタートで2番手に浮上するも、ハミルトンが奪い返す。バトンもM.シューマッハから4位を奪い返した。小林可夢偉はスーティルに抜かれた。ウェバー、ハミルトン、ベッテル、バトン、M.シューマッハ、N.ロズベルグ、クビサ、マッサ、ペトロフ、スーティル。
 ハミルトンがウェバーの後ろにピタリとつけている。テール・トゥ・ノーズ。小林可夢偉が10周目という早めの段階でピットイン。スーティルのピットアウト後、小林可夢偉が前に出た。また、ベッテルがピット作業戦でハミルトンを抜いた。バトンもピットインを粘って前との差を詰めた。ウェバー、ベッテル、ハミルトン、バトンの4台が高速バトルを演じ、後方にM.シューマッハ、N.ロズベルグ、クビサ、マッサ、ペトロフ、アロンソと続いている。
 雨の予報が何度か流れた。レッドブルの二人が延々と接近戦を続ける。41周目、とうとうベッテルがウェバーに襲いかかり、両者は接触! ベッテルがその場でリタイヤとなった。マクラーレン勢が代わってワンツー体制を築いた。ウェバーがピットインし、3位で復帰。44周目、少し雨が降ってきた。
 ベッテルが、スキャンダルを起こした有名人くらいに厚く記者に囲まれてピットに戻ってきた。49周目、マクラーレン内でもバトルが勃発、4、5つのコーナーを巡るうえでバトンがハミルトンをオーバーテイク、さらにハミルトンが抜き返した。こちらは清々しい先頭争いであった。終盤、ペトロフとアロンソの間でもバトルが生じた。54周目、アロンソに抜かれる際、ペトロフがダメージを負ってピットイン、これで小林可夢偉が10位に浮上した。
 ウェバーは3連勝ならず、ハミルトンが今季初勝利を遂げた。ザウバーと小林可夢偉が今季初入賞。ファステストラップ争いに終盤、アルグエルスアリやペトロフが名を連ね、57周目にペトロフが初のFLを記録した。

 ■ 6月13日 第8戦 カナダ
 2年ぶりの開催となるカナダGP。2008年のときはイベント中に路面が剥がれ続けるトラブルが生じた。今季は路面は丈夫なものの、タイヤ劣化の傾向がこれまでと全く違った。ブリジストンは、「ピットストップは最低でも2回必要」と判断した。決勝でのタイヤの選択に各チームが悩んだ。重い燃料でソフトを履いてスタートするとどうなるのか? しかし固いタイヤで予選に挑めばグリッドは下位になってしまうが…。 セーフティーカー出動の可能性だって高いのである。
 そして予選では、最後のQ3において、柔らかいタイヤと固いタイヤを履く組に分かれた。レッドブルは固いタイヤを履く作戦に出た。そしてハミルトンがPPの座に就いた。彼は燃料を減らしすぎたあまり、アタック後にピットに戻れなくなって、罰金を科せられた。ハミルトンはカナダGPに3回出場して全てPPである。また、決勝前に予選2位のウェバーがギアボックスを交換し、5グリッド降格の処分となった。
 決勝が始まった。リウッツィとマッサが接触し、2台ともピットへ向かう羽目になった。デ・ラ・ロサがコースオフ。小林可夢偉が10位へとジャンプアップした。しかし最終コーナーで、M.シューマッハやヒュルケンベルグとの絡みのなかでウォールに激突し、リタイヤとなった。ハミルトン、ベッテル、アロンソ、バトン、ウェバー、クビサ、スーティル、N.ロズベルグ、バリチェロ、ヒュルケンベルグの順で1周目が終わった。
 "ソフトでスタート組"は5〜7周目に早くもタイヤ交換を始めた。ピットロードで、アロンソが際どくハミルトンの前に出た。8周目、ベッテル、ウェバー、クビサ、M.シューマッハ、ブエミの"ハードでスタート組"が上位を占めた。アロンソ、ハミルトン、バトンらがハード側に履き換えてこれを追う。以後、分かりやすいように順位に(S-H)のような印をつける(Sはsoft=柔らかい方の、HはHard=固い方のタイヤの意)。
 ベッテルがウェバーとの差を徐々に広げつつ、12〜15周頃、"ハードでスタート組"のピットインが行われた。しかし、予選順位を覆すようなアドバンテージを築いておらず、思うように前に出れない。その間の13周目、ハミルトンがアロンソをオーバーテイクした。また、M.シューマッハはクビサとのバトルでパンクを喫して再度ピットイン、中団へ後退している。17周目、ハミルトン(S-H)、アロンソ(S-H)、バトン(S-H)、ベッテル(H-S)、ウェバー(H-H)、クビサ(H-H)、スーティル(S-H)、ブエミ(H-H)、N.ロズベルグ(S-H)、ヒュルケンベルグ(S-H)。
 ハミルトンとアロンソが接近戦を演じている。25周目頃に2/2のピットインが行われた。アロンソは渋滞につかまり、ハミルトンの後塵を拝した。レッドブル勢はベッテルとウェバーでタイヤ戦略を分けた。ヒュルケンベルグがスピード違反によって10秒ストップペナルティを科された。31周目、ウェバー(H-H)、ハミルトン(S-H-H)、アロンソ(S-H-H)、バトン(S-H-H)、ベッテル(H-S-H)、ブエミ(H-H)、クビサ(H-H)、N.ロズベルグ(S-H-H)、M.シューマッハ、アルグエルスアリ。
 ウェバーが固いタイヤのまま10秒前後の差で逃げる。35周目、ブエミがピットイン。40周を過ぎるとウェバーのペースがガタ落ちした。しかし残り周回を考えると、ここでソフトタイヤに履きかえることもできない。ハミルトンの影が迫ってきた。50周目、とうとうハミルトンにオーバーテイクされたところで、ウェバーは最後のタイヤ交換に向かった。この時点で、ハミルトン(S-H-H)、アロンソ(S-H-H)、バトン(S-H-H)、ベッテル(H-S-H)、ウェバー(H-H-S)、クビサ(H-H-H)、N.ロズベルグ(S-H-H)、M.シューマッハ、ブエミ(H-H-H-S)、ヒュルケンベルグ。
 ハミルトンとアロンソの差が3秒ほどに開いていった。56周目、バトンがアロンソをオーバーテイク、マクラーレンがまたワンツー体制を築いた。59周目、クビサが3回目のピットイン。60周目、ブエミがM.シューマッハをオーバーテイク。62周目、ポイント圏内まで追い上げてきたマッサが、M.シューマッハの不味いブロックによって接触、ピットインを強いられてまた後退した。このように、M.シューマッハはレース中、多くの面々とラインを何回も変えるような苦しい戦いが続いた。しかし最終周、フォース・インディア勢に抜かれて得点圏外へ転落してしまった。
 同じハードタイヤでも、ウェバーが25周ほどしかグリップを保てなかったり、マクラーレン勢が40周以上も走れたりと、タイヤ性能(ラバーの乗り方と劣化具合)にバラつきがみられる難しいレースであった。そんなギャンブルのようなレースにおいて、またしてもマクラーレン勢が正解を選びだし、今度はハミルトンが勝利を飾って2連勝、ポイントランキングでもトップに立った。バトンもいい仕事をして、マクラーレンは2戦連続のワンツーフィニッシュでもある。今季、ワンツーフィニッシュは8戦で3チームによって6回も成し遂げられている。
 マッサは最後のピットインでスピード違反を犯し、20秒加算ペナルティを受けた。順位変動はない。また、クビサにはスーティルとの際どいピットレーン進入の場面があり、レース後に戒告処分を受けた。

 ■ 6月27日 第9戦 ヨーロッパ
 レッドブルが再びPPを奪い返し、今回はベッテルがウェバーに勝った。中団ではルノーとウィリアムズが共にQ3入りし、メルセデス勢がQ2落ちした。なお、H-H.フレンツェンが決勝レースのスチュワードを務める。
 汚れた路面から発進するウェバーがやはりスタートで出遅れた。1コーナー、2コーナーを回るうちにフェラーリ勢にも抜かれてしまう。前方では、ハミルトンがベッテルにも襲いかかり、両者がタイヤを軽く当て合った。クビサとバトンが半周以上サイドバイサイドで順位を争った。ベッテル、ハミルトン、アロンソ、マッサ、クビサ、バトン、バリチェロ、ヒュルケンベルグ、ウェバー、ブエミの順。
 前を抜きあぐねるウェバーは、7周目に早くもタイヤ交換(若干の作業ミスあり)を行い、ロングステイントを走り切ることで上位進出する作戦に出た。がしかしの9周目、コバライネンを抜くときに空中で一回転するほどの激しい接触(タイヤへの乗り上げ)を起こした。そのままタイヤバリアに直進する大クラッシュでリタイヤとなる。本人に怪我はなく、ステアリングをポンと放り投げた。レースはすぐにセーフティーカーが出動し、すぐに中団の者がピットに駆け込んでタイヤ交換を行った。翌周になって上位陣もピットインする。M.シューマッハは安全走行中という中途半端なタイミングでタイヤ交換し、最後尾に落ちた。レース後、出口で不可解な赤信号につかまったとも述べた。
 15周目、ベッテル、ハミルトン、小林可夢偉(ピットインを行わなず上位進出)、バトン、バリチェロ、クビサ、ブエミ、スーティル、ヒュルケンベルグ、アロンソの順でレースが再開する。アロンソがすぐにヒュルケンベルグを抜いた。前2台がグングンと先頭を争いながら前に出て、小林可夢偉以下が数珠つなぎになった。27周目、ハミルトンにドライブスルーペナルティが科された。理由は安全走行開始直前にSCを追い抜いたというものである。下位に差をつけていたため、順位を落とさずの復帰に成功する。この頃、17コーナー付近にビール瓶が投げ込まれ、隙を見たマーシャルが全力疾走で取り除いた。
 ハミルトンが少しずつ差を詰めていくもののベッテルの一人旅が続く。二人の差は10秒以上ある。小林可夢偉は3位を守りつつ、ピットインの機会をうかがう。彼の作戦では、ピットイン後の復帰を考えると、後ろに渋滞をつくっては困る(できるだけ飛ばして後ろに差をつけなければならない)。彼は次第に上位陣と遜色ないタイムを刻むようになった。36周目、グロックら周回遅れを抜く寸前に、その周回遅れ同士に接触が起きた。小林可夢偉は一瞬走行が乱れ、バトンに真後ろに詰められてしまう。39周目、スーティルが接触を起こしながらブエミをオーバーテイク。41周目、ヒュルケンベルグのマシンから白煙が上がり、走行を続けるも50周目にリタイヤ。悔しそうにタイヤバリアを蹴った。
 結局、小林可夢偉は53周目という極端な段階まで粘ってピットイン、9位で復帰した。ソフトタイヤ装着ですぐに前をうかがう。56周目、アロンソを抜いた。そして最終周の最終コーナーへの飛び込みでブエミをも交わし、7位でゴールした。
 ベッテルが今季2勝目。レース後、バトンら9台にSC出動直後のピットインのため5秒加算のペナルティが科された。また、グロックにも青旗無視の影響で20秒加算のペナルティが科された。このため、アロンソ8位、ブエミ9位、N.ロズベルグが10位になるという変動があった。モナコGPと同じように、元F1ドライバーがスチュワードを務めているときにSC絡みで微妙な行動が起き、レース後にペナルティが科される結果となった。ハミルトンへのペナルティ提示が遅すぎ、バトンら9台への内容が軽いのではないか、という批判が噴出している。

 ■ 7月11日 第10戦 イギリス
 シルバーストンは第3セクションに改修が加えられ、1周が5.901kmへと延長された。近年のサーキット新設・改修と言えばドイツ人のH.ティルケによるものがほとんどだが、今回の改修はライバルのポピュラス社によって行なわれた。HRTのB.セナに代わって日本の山本左近が3年ぶりにF1を走ることになった。レッドブル内では、予選直前に新しいフロントウイングをウェバーからベッテルへと説明なしに取り替え、ウェバーがチームに怒りを表す、、、という揉め事があった。
 予選ではそのレッドブル勢が圧倒的な速さでフロントローを占め、ベッテルが2戦連続のPP。アロンソが3番手につけ、王者凱旋のバトンがQ2落ちした。リウッツィが他車の進路妨害で5グリッド降格となった。
 スタートから1コーナーにかけ、レッドブル勢同士が激しく先頭を争う。ウェバーがベッテルに並びかけ、ベッテルは一旦コースオフ。ここでハミルトンに迫られ、右リアタイヤのパンクが起きた。フェラーリ勢も同じように順位を争い、両者の軽い接触によってマッサもパンクを喫した。それぞれタイヤ交換を強いられ、最後尾に落ちた。この混乱に乗じてハミルトンがウェバーに襲いかかるもウェバーが抑えた。ウェバー、ハミルトン、クビサ、N.ロズベルグ、アロンソ、バリチェロ、M.シューマッハ、バトン、小林可夢偉、スーティルの順で1周目を終えた。
 ウェバーが徐々にハミルトンとの差を広げ、3位クビサ以下が大きく引き離されていく。12周目、M.シューマッハから上位陣がピットインを開始した。17周目、アロンソがシケインをショートカットしながらクビサをオーバーテイクした。19周目、クビサのマシンに異変が生じ(ドライブシャフト破損)、ガレージに収まった。24周目、ウェバー、ハミルトン、ヒュルケンベルグ(未ピットイン)、N.ロズベルグ、アロンソ、バトン、アルグエルスアリ(未ピットイン)、バリチェロ、小林可夢偉、M.シューマッハ。
 25周目、スーティルとの争いでデ・ラ・ロサのリアウイングが壊れ、パーツが飛び散った。数周後にセーフティーカー出動という事態になった。ここでアロンソに先のショートカットの件でドライブスルー・ペナルティが科された。なお、今回のスチュワードにはN.マンセルが加わっていて、またしてもSC出動のタイミングと絡んだ(事後であるが)ペナルティとなった。
 31周目にレースが再開。密集状態でのペナルティのためアロンソはポイント圏外に脱落した。ウェバー、ハミルトン、N.ロズベルグ、バトン、バリチェロ、小林可夢偉、M.シューマッハ、スーティル、ヒュルケンベルグ、ペトロフの順。32周目、スーティルが軽い接触を起こしつつM.シューマッハをオーバーテイクした。40周目前後、ベッテルがペトロフ、ヒュルケンベルグ、M.シューマッハと立て続けにオーバーテイクし、ポイント圏内に浮上した。ウェバー、ハミルトン、N.ロズベルグ、バトン、バリチェロ、小林可夢偉、スーティル、ベッテル、M.シューマッハ、ヒュルケンベルグ。
 フェラーリの2人が非正規のタイヤ交換でピットインした。しかしタイヤが用意されていないという失態を演じた。終盤、スーティル以下ドイツ人4人が数珠つなぎで順位を争った。ファイナルラップ直前、ベッテルが執念でスーティルをオーバーテイクした。
 速さでは文句なしのレッドブル。しかしレースでは再度チームメイト同士の際どい争いによって、一方が被害を受ける形となった。そしてマクラーレン勢の特にハミルトンにポイント的に有利な働きになったのも、トルコGPと重なる。

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 ■ 7月25日 第11戦 ドイツ
 HRTは引き続き山本左近を乗せ、今回はB.セナが復帰しチャンドックが休む。スーティルとディ・グラッシとグロックがギアボックスの交換で5グリッド降格している。グロックはギア比変更でさらに5グリッド降格ということになっている。フェラーリ勢がずっと好調で予選でも2位3位につけた。PPベッテルと2位アロンソは0.002秒という僅差である。
 スタートではフェラーリ勢が好発進で飛び出した。ベッテルはアロンソを抑えんと右に寄せるが及ばない。マッサとベッテルが1コーナーをオーバーランする。がしかしマッサがトップに立った。後ろではハミルトンがバトンとウェバーを抜いている。さらに後ろで接触があり、ブエミとトゥルーリがリタイヤとなった。マッサ、アロンソ、ベッテル、ハミルトン、ウェバー、バトン、クビサ、M.シューマッハ、N.ロズベルグ、小林可夢偉というトップ10で固まった。マッサとアロンソの差は1.5秒前後である。
 12周目、自由に走れる位置を求めてベッテルがピットインを始めた。しかし翌周にアロンソやウェバーらもピットインして、順位は変わらない。20周目の時点で、バトンがピットインを粘って見かけ上の首位、マッサ、アロンソ、ベッテル、ハミルトン、N.ロズベルグ(未)、ウェバー、ペトロフ(未)、ヒュルケンベルグ(未)、デ・ラ・ロサ(未)という順位である。
 21周目、マッサとアロンソが白熱のバトルを演じた。22周目、バトンがピットインしてウェバーの前に出た。26周目、同じくペトロフがピット戦略で小林可夢偉の前に出た。続いて同じようにN.ロズベルグがM.シューマッハの前に出た。30周目、マッサ、アロンソ、ベッテル、ハミルトン、バトン、ウェバー、ヒュルケンベルグ(未)、デ・ラ・ロサ(未)、クビサ、N.ロズベルグ。
 マッサとアロンソの差は2〜3秒のままで、ベッテルが両者のペースについていけない。34周目、デ・ラ・ロサがヒュルケンベルグをオーバーテイクした。直後にヒュルケンベルグがピットイン。40周を過ぎると、アロンソがマッサに1秒以内にまで迫っていった。49周目、チームオーダーの無線がTVに流れ、マッサがヘアピンでアロンソに順位を譲った。この時点で、アロンソ、マッサ、ベッテル、ハミルトン、バトン、ウェバー、デ・ラ・ロサ、クビサ、N.ロズベルグ、M.シューマッハ。
 51周目、粘ったデ・ラ・ロサがピットインし14番手で復帰した。小林可夢偉は依然ペトロフの後ろのため、トップ5のチームが入賞圏内を占めている。新品の柔らかいタイヤでデ・ラ・ロサが攻める。しかし59周目にコバライネンと接触し、ダメージを負ってピットインを強いられた。
 サッカーのW杯と同じように、F1でもスペインがドイツを蹴散らして勝利を収めるという結果になった。開幕戦に続く、フェラーリのワンツーフィニッシュである。ただし、あからさまなチームオーダーが暗い影を落とした。今回のような、共にタイトル獲得の可能性が残っているのにもかかわらず、一方のドライバーをチームが優遇するような順位操作は、2003年からレギュレーションで禁止されている。フェラーリはレース後に10万ドルの罰金を受けた。マッサは「我々はチームのために走っているのだ」という、これまでのドライバーと同じ文句を同じような複雑な表情で述べた。

 ■ 8月3日 第12戦 ハンガリー
 レッドブルが2005年の参戦から100戦目を迎えた。予選は彼らの独壇場でベッテルがPP。エンジンに規制がかかる以前のコースレコードを更新した。レッドブル以外ではチームメイト間で差が開き、バトンやM.シューマッハはQ2落ちした。小林可夢偉は予選後の重量計測をせずにガレージに戻ったため、5グリッド降格となった。
 アロンソが好スタートに成功。1コーナーまでに鼻の差で先頭に立った。しかしアウト側だったためベッテルが先頭を守った。ペトロフもハミルトンを抜いて5位に浮上したが、2周目に抜き返された。2周目、ベッテル、アロンソ、ウェバー、マッサ、ハミルトン、ペトロフ、N.ロズベルグ、クビサ、バリチェロ、ヒュルケンベルグという順位。アルグエルスアリがエンジンブローでリタイヤ。11位以降は、デ・ラ・ロサ、スーティル、M.シューマッハ、バトン、小林可夢偉…となっている。
 序盤はベッテルの一人旅となる。15周目、誰かのパーツが転がり、回収のためセーフティーカー出動の事態となった。当に皆がピットインのタイミングであり、大騒ぎになった。先頭のベッテルは無理やり白線をカットしてピットレーンに向かった(お咎めなし)。フェラーリは2台同時のピット作業を行ない、マッサがハミルトンに抜かれた。N.ロズベルグがタイヤ装着に失敗しリタイヤ(レース後、チームに5万ドルの罰金)。真後ろのスーティルが転がるタイヤを気にしつつ停車、しかしクビサの発車と重なって激突! スーティルはその場でリタイヤ、クビサに10秒ストップペナルティが科された。ウェバー(未)、ベッテル、アロンソ、ハミルトン、マッサ、バリチェロ(未)、ペトロフ、ヒュルケンベルグ、デ・ラ・ロサ、バトンの順で安全走行。
 18周目にレース再開。19周目、小林可夢偉がM.シューマッハをオーバーテイクして11番手に。24周目、ハミルトンが突如マシンを止めた(ギアボックストラブル)。ベッテルは安全走行中にSCから10車身以上の車間を開けたため、ドライブスルーペナルティを受けた。32周目、ウェバー(未)、アロンソ、ベッテル、マッサ、バリチェロ(未)、ペトロフ、ヒュルケンベルグ、デ・ラ・ロサ、バトン、小林可夢偉。
 レース半ばをすぎ、ウェバーはスーパーソフトタイヤのまま依然ピットに入らず首位、ベッテルがアロンソに1秒以内に迫っていく。43周目、ウェバーがピットイン、トップで復帰する。56周目、バリチェロがピットイン。ウェバーと同じ作戦だが、差を築けなかったため、11番手での復帰となった。この時点で、ウェバー、アロンソ、ベッテル、マッサ、ペトロフ、ヒュルケンベルグ、デ・ラ・ロサ、バトン、小林可夢偉、M.シューマッハ。
 ベッテルはアロンソと1秒以内の差を続けているが、仕掛けるまでにはいかない。バリチェロはM.シューマッハに追いついた。レース終盤にバトルになり、56周目のホームストレートでオーバーテイクが起きた。このときM.シューマッハが壁に向かって幅寄せし、バリチェロは激怒した。
 ウェバーが今季4勝目で、自身もチームもランキングで首位に立った。2勝ずつのハミルトン、ベッテル、バトン、アロンソの4人が20ポイント差以内にひしめく、…という混戦模様でF1は一ヶ月の夏休みに入る。デ・ラ・ロサが今季初入賞。M.シューマッハの危険な幅寄せに対して、次戦の10グリッド降格の処分が下された。

 ■ 8月29日 第13戦 ベルギー
 予選ではQ1とQ3後半で雨が降った。PPは降雨前にトップタイムを出したウェバー。降雨中に別格のタイムを出したハミルトンが2位。また、予選中の妨害によってブエミ(3)とグロック(5)、ギアボックス交換でN.ロズベルグ(5)、前GPの危険な幅寄せによってM.シューマッハ(10)、9基目のエンジン交換によってデ・ラ・ロサ(5)が、それぞれ()内ずつグリッド降格となった。
 怪しそうな雲行きの空のもと、レースがスタートした。ウェバーが出遅れ、ハミルトンがトップで1コーナーを通過。最終シケイン付近で激しい雨が待ち受けており、多重コースオフが発生、バリチェロがアロンソに追突した。バリチェロはリタイヤ、セーフティーカー出動の事態となった。何台かレインタイヤに交換した者が現れた。小林可夢偉はパンクを喫し、ピットインしてハードタイヤに交換、この時点でタイヤ交換義務を済ませた。ハミルトン、バトン、クビサ、ベッテル、ウェバー、マッサ、ヒュルケンベルグ、スーティル、リウッツィ、N.ロズベルグの順位。最後尾スタートのペトロフが11位。安全走行中に雨が止む。アロンソが再びピットインしてレインからドライタイヤに交換し、最後尾に落ちた。
 4周目に再開。ベッテルがクビサをパス。スーティルもヒュルケンベルグを抜いた。10周目、リウッツィがピットイン。11周目、ペトロフがN.ロズベルグをオーバーテイク。乱れたN.ロズベルグはM.シューマッハにも抜かれた。パーツがはじけ飛び、ピットインを強いられた。先頭集団では、バトンはフロントウイングを少し傷めていてペースが上がらない。そのためベッテル以下が数珠つなぎになっている。アロンソが後方でごぼう抜きを見せている。ハミルトン、バトン、ベッテル、クビサ、ウェバー、マッサ、スーティル、ヒュルケンベルグ、ペトロフ、M.シューマッハ。
 15周目、小林可夢偉とN.ロズベルグがバトル。16周目、雨がポツポツふりだした路面で、ベッテルがコントロールを失い、ミサイルのような勢いでバトンに追突した。バトンは無情のリタイヤとなった。ベッテルにすぐにドライブスルー・ペナルティが科され、20周目に消化、14位へと脱落した。その後、上位陣がピットインを行った。ハミルトン、クビサ、ウェバー、マッサ、スーティル、M.シューマッハ、N.ロズベルグ、小林可夢偉、アロンソ、ペトロフ。
 27周目、上位浮上をうかがうベッテルはリウッツィとまた接触を起こし、ゆっくりとピットに戻ってきた。タイヤを履き替えてコースに復帰するも最後尾の20番手である。リウッツィもFウイングを傷めてピットインを強いられた。アロンソが小林可夢偉を執拗に攻め立てている。再び黒い雲がサーキットを包み始めた。
 35周目、本格的な雨が降りだした。ハミルトンがコースオフするも無難に復帰。皆がピットに駆け込んでレインタイヤに交換した。クビサはブレーキに失敗し、メカニックの何人かに接触した。この隙にウェバーがいち早くピットを出る。ベッテルがアロンソのピットアウトを邪魔し、審議対象になった。ハミルトン、ウェバー、クビサ、マッサ、スーティル、M.シューマッハ、小林可夢偉、アロンソ、N.ロズベルグ、ペトロフという順位。38周目、アロンソが単独スピン! コースを横切るような形でリタイヤとなった。撤去のため2度目のSC出動となった。
 水しぶきが上がる程のウェットコンディションで、41周目にレースが再開した。オー・ルージュ通過までの攻防で、N.ロズベルグが2台を抜いた。デ・ラ・ロサがペトロフを捕えようとしてコースオフした。
 "荒れるレースではできるだけ前にいた方が安泰"ということの証明のように、ハミルトンがスパ初勝利を遂げた。今季3勝目。彼以外はみな荒れる展開に翻弄され、残念な結果や嬉しい結果、平凡な結果と様々に別れた。バトンだけは全くのもらい事故で不運だったが、もう一歩前に出る力が足りなかったということだろう…。10位でフィニッシュしたアルグエルスアリは、2回目のレース再開でシケインショートカットがあったとして20秒加算のペナルティを受け、ポイント圏外へ脱落した。

 ■ 9月12日 第14戦 イタリア
 これまでに見せたレッドブルの速さはコーナリング性能に拠るところがほとんどと言ってよい。直線での最高速は毎戦下位の方であった。そんなこともあってか、超高速サーキットであるこのモンツァにおいて、レッドブルは今季初めてフロントローから陥落した。PPはアロンソ。地元の喝采を浴びた。2位にバトン。ハミルトンは戦略にミスがあり5位。グロックがギア交換のため、またペトロフが予選中の進路妨害のため5グリッド降格の処分を受けた。
 快晴の空の下レースがスタート。小林可夢偉がピットスタートを選んだ。バトンがいい発進を見せて先頭で1コーナーを通過。アロンソとマッサも1〜2コーナーで争う。3台とも軽い接触が起きた。ハミルトンはしかし、マッサに激しくぶつかってしまう。操作不能に陥り、驚きの0周リタイヤとなった。ウェバーもスタートを失敗し、9番手である。その他、1コーナーでは後方でも混乱が起きた。バトン、アロンソ、マッサ、N.ロズベルグ、クビサ、ヒュルケンベルグ、ベッテル、M.シューマッハ、ウェバー、ブエミ。
 前GPで正念場を迎えた3人にチャンス到来の展開である。小林可夢偉は4速以上が入らないというトラブルでリタイヤ。また、スーティルが1周目の混乱でグラベルに押し出されたためピットイン。6周目、ウェバーがM.シューマッハをパス。上位3人の高速バトルが延々と続く。アロンソは10周すぎに一時バトンとの差が開いたものの、直後にFLを連発して持ち直した。20周目、マッサがスリップして若干後退した。21周目、ベッテルにブレーキが軽くかかりっ放しになるトラブルが発生、涙目でピットに不調を訴えた。ウェバーがベッテルの前へ。また、アルグエルスアリが1周目1コーナーをショートカットしたため、ドライブスルーペナルティを受けた。バトンとアロンソが1秒以内の差、3秒ほど遅れてマッサ、10秒以上後ろにN.ロズベルグ、以下、クビサ、ヒュルケンベルグ、ウェバー、ベッテル、M.シューマッハ、ブエミという順番である。
 ベッテルのペースが元に戻った。33周目頃に1回きりのピット作業がはじまった。35周目にバトン、翌周にアロンソが作業を行ない、際どいタイミングでアロンソが先頭に立った。ティフォシたちは立ち上がって拍手した。山本左近がクルーを轢いてしまい、救急車がピットに駆け込む事態となった。クルーの命に別状はない模様。アロンソ、バトン、マッサ、ベッテル、N.ロズベルグ、ヒュルケンベルグ、ウェバー、クビサ、M.シューマッハ、ペトロフ。上位陣ではベッテルだけピットインせず、ソフトタイヤで走行を続けた。
 アロンソはバトンに3秒ほどの差をつけてトップを快走。ヒュルケンベルグがウェバーに攻め立てられ、1コーナーを何度かショートカットした。しかしスチュワードは何も言わない。不満を抱えつつも、ウェバーは50周目にヒュルケンベルグを抜いた。後がないベッテルは、最終周直前までピットインしないという極端な作戦に打って出た。ソフトタイヤのまま52周を走り、十分な差を築きあげた。ファイナルラップ、ピットアウトしたベッテルは4番手で復帰した。
 レース終了。ベルギーで正念場を迎えた3人が踏ん張った結果となった。しかしポイント制の変更のため、「正念場」とか「脱落」の感覚が上手くつかめない。1位25点を10点とし、昔の感覚に戻してみた(現ポイントに0.4を掛けたということ)。
M.ウェバー74.8
L.ハミルトン72.8
F.アロンソ66.4
J.バトン66
S.ベッテル65.2
この状態で1位10点のレースが残り5戦続くと考えると、まだまだ何の予想も立てられないまま、シーズン終盤に突入する状態と言えそうである。

 ■ 9月26日 第15戦 シンガポール
 前GP終了後、ザウバーはデ・ラ・ロサの代役としてニック・ハイドフェルドを起用することを発表した。11ヶ月ぶりの復帰。また、イベント直前にHRTの山本左近が食中毒に罹り、クリスチャン・クリエンが代役としてF1に復帰することになった。こちらは4年ぶり。
 予選Q1。マッサのマシンにトラブルが生じ、彼は予選最下位となった。クリエンがB.セナに1.2秒という差をつけ、周囲を驚かせた。Q2では、小林可夢偉がハイドフェルドに1秒弱の差をつけQ3進出を果たした。Q3ではベッテルが僅かにタイヤを壁にあて、タイムをロスした。結果F.アロンソが2戦連続のPP。タイトル争いの5人が予選上位を独占した。マッサは予選最下位を好機と見て、9基目のエンジンを交換した(ルール上は10グリッド降格)。
 決勝日。ヒュルケンベルグがギア交換で5グリッド降下、アルグエルスアリがピットスタートとなる。スタートは無難に決まり、アロンソ、ベッテル、ハミルトン、バトン、ウェバー、N.ロズベルグ、クビサ、バリチェロ、M.シューマッハ、ペトロフという順番になった。マッサが波乱を想定して1周目でタイヤ交換を済まし、上位進出を狙う。2周目、リウッツィがハイドフェルドに追突し、コース上にマシンを止めたことで、早速セーフティーカー出動の事態となった。ここで上位ではウェバーがいち早くピットインした。以下の後続も大勢がピットに連なった。
 6周目にレース再開。アロンソ、ベッテル、ハミルトン、バトン、N.ロズベルグ、クビサ、バリチェロ、M.シューマッハ、小林可夢偉、M.ウェバーという順番である。11位のグロック以下が詰まっている。マッサはこの時点で14位。タイヤ交換義務を済ませたウェバーは、7周目に小林可夢偉、11周目にM.シューマッハをパスした。マリーナ・ベイ・サーキットはピットレーン制限速度が60kmのため、ピット作業が30秒以上かかる。ウェバーと作戦が異なる上位4人は、うかうかしていられない。ウェバーに差をつけてピットインしなくてはならない。アロンソはペースを上げ、ベッテルが3秒差で従う。ハミルトン以下はどんどん離されていった。
 28周目にマクラーレン勢がピットインを開始、ウェバーの後ろで復帰した。ウェバーの作戦通りである。続いてアロンソとベッテルが同時ピットイン、順位を変えずに復帰した。同じ頃、小林可夢偉がM.シューマッハを弾き飛ばしてオーバーテイク。しかし31周目の16コーナーで、小林可夢偉は操作ミスからクラッシュ、そこにB.セナも突っ込んで共にリタイヤとなった。2度目のSC出動。バリチェロとクビサがピットイン。
 36周目にレース再開。アロンソ、ベッテル、周回遅れのヴァージン勢がいて、3位ウェバー、4位ハミルトン、以下バトン、N.ロズベルグ、クビサ、バリチェロ、スーティル、ヒュルケンベルグの順である。周回遅れのせいでウェバーは思いっきりの発進ができない。「ウェバーに奪われた3位を取り戻すのは今しかない」と見たか、ハミルトンがウェバーのスリップストリームに入り、一時的に前に出た。しかし次のコーナーでウェバーがハミルトンを弾き飛ばして抜き返した。マシンを傷めたハミルトンはその場でリタイヤとなった。シーズン終盤の大事なときに2戦連続ノーポイントである。彼はステアリングを投げて怒りを露わにした。スチュワードはこの接触をレーシングアクシデントとした。37周目、同じコーナーでM.シューマッハがハイドフェルドを弾き飛ばして、同じくハイドフェルドがリタイヤとなった。M.シューマッハは先の小林可夢偉との衝突も含め、2回余計なピットインを強いられた。
 45周目、クビサがパンクによりピットイン、13位まで後退した。アロンソ、ベッテル、ウェバー、バトン、N.ロズベルグ、バリチェロ、スーティル、ヒュルケンベルグ、マッサ、ペトロフというトップ10である。アロンソとベッテルが1〜2秒の差でFLを出し合って争っている。50周前後、クビサが新旧タイヤの違いを武器に前5台を次々にオーバーテイクするという余興を見せた。終了直前の59周目、ブエミがコバライネンを弾き飛ばして、コバライネンのマシンから炎が上がった。そのままホームストレートまでゆっくり走行、クルーから消化器を受け取り、自ら消火活動を遂行した。
 その間にファイナルラップに移り、アロンソが2連勝を遂げた。PPとFLと全周回1位の完全勝利でもある。これは2004年のM.シューマッハ以来、6年ぶりの出来事である。レース後、1周目にコースアウトで利益を得たとして、スーティルとヒュルケンベルグに20秒加算のペナルティが科せられ、順位が変わった。

 ■ 10月10日 第16戦 日本
 (当サイトの数え方で)バリチェロが300戦出走を果たした。土曜予選。一日中、大雨が続き、安全性の面から予選が翌日に順延となった。ハミルトンは金曜にクラッシュ、土曜にギア交換で5グリッド降格が決まり、自身も耳の感染症という不調を抱えるなど調子を掴めない。カラッと晴れ上がった日曜の午前10時に予選がはじまった。数戦ぶりにレッドブルの最速争いが展開され、ベッテルが今季8回目のPP。年間最多のPP王が決まった。クビサが4位に飛び込んだ。母国GPを迎える小林可夢偉は最後にミスを犯し、Q2で敗退した。彼は7年前に単身で海外へ修行に出かけたので、鈴鹿は走り慣れてはいない。山本左近は24位に終わった。
 決勝。ハミルトンは前述のとおり8番手からスタートする。バトンと小林可夢偉が固いタイヤでのスタートを選んだ。ディ・グラッシがフォーメーションラップ前の、ダミー・グリッドに向かうレコノサンスラップ中にクラッシュし、出走できなくなった。シグナルが消えレーススタート。ウェバーがまた不味いスタートでクビサに出し抜かれた。ペトロフとヒュルケンベルグが接触してペトロフが壁にクラッシュした。マッサとリウッツィも1コーナーの進入で接触し、この4台はリタイヤとなった。セーフティーカーが出動し、何台かがピットに向かった。
 ベッテル、クビサ、ウェバー、アロンソ、バトン、ハミルトン、バリチェロ、M.シューマッハ、ハイドフェルド、スーティルの順で安全走行。3周目、2位クビサの右リアタイヤが外れてリタイヤとなった。7周目にレースが再開した。M.シューマッハがバリチェロを抜いた。N.ロズベルグがブエミを抜こうとして激しくオーバーランした。
 ベッテルとウェバーが1.5〜2秒の差、そこから数秒の差でアロンソが続く。以下、バトン、ハミルトン、M.シューマッハ、バリチェロ、ハイドフェルド、スーティル、アルグエルスアリの順でレースが進む。13周目、ヘアピンカーブで小林可夢偉がアルグエルスアリをオーバーテイク。入賞圏内に来た。僅かに接触し、マシンからパーツが落ちた。しかし18周目、同じくヘアピンカーブでスーティルをも抜いた。22周目にハミルトンから上位陣のピットインが始まったが、特に大きな順位変動は起きない。作戦通りにバトンと小林可夢偉はピットインせず、一時的に上位に浮上している。
 26周目、バトン、ベッテル、ウェバー、アロンソ、ハミルトン、小林可夢偉、N.ロズベルグ、M.シューマッハ、ハイドフェルド、バリチェロの順である。30周を過ぎると、小林可夢偉がピット作業後の入賞圏内維持を目指してペースアップ。38周目、バトンと小林可夢偉がピットインし、5位、12位で復帰した。
 ベッテル、ウェバー、アロンソ、ハミルトン、バトン、N.ロズベルグ、M.シューマッハ、ハイドフェルド、バリチェロ、スーティルの順でレースが進む。40周目頃、ハミルトンが3速以下のギアを失ったとチームに伝えた。グリッドを下げてまで交換したのにまたトラブルなのだから、散々である。44周目、バトンに4位を譲ってレースを続ける。
 小林可夢偉は、自身のマシンの特徴(エンジンが非力でストレートが伸びない)ことを踏まえ、ヘアピンカーブの飛び込みで前の車を追い抜く作戦に打って出た。ソフトタイヤの性能を活かし、45周目にまずアルグエルスアリをオーバーテイク。ここで再び軽い接触があり、マシンに損傷が起きた。直後、スーティルのマシンが白煙をあげ、ゆっくりとピットに戻ってリタイヤとなった。小林可夢偉はすぐさまバリチェロを同じくヘアピンでオーバーテイク。48周目、N.ロズベルグのリアタイヤが外れ、激しくクラッシュしてリタイヤとなった。49周目、小林可夢偉はハイドフェルドの後ろに迫った。チームメイトは若干の気遣いを感じさせて、激しく抵抗せずに抜かれていった。これで一気に7位である。バレンシアやシンガポール(クビサ)でも見られた、タイヤの違いを活かしたオーバーテイクショーである。ヘアピンでインからアウトから、次々と追い抜きを見せる若武者の姿に、日本のファンのみならず、様々なレース関係者が賛辞を述べた。
 レース終了。ベッテルが3ヶ月半ぶりの勝利を遂げた。ポイントランキングでマクラーレンの二人が4、5位となり、とうとう弱気なコメントが出はじめた。アロンソは、鈴鹿を「レッドブルが如何に速いかを見せつけるためのサーキット」と捉え、残りの3戦の舞台では力を発揮できる自信を見せている。1周目の接触の件で、ペトロフに次戦5グリッド降格の処分がくだった。

 ■ 10月24日 第17戦 韓国
 ☆霊岩(ヨンアム)サーキット…ヘルマン・ティルケ設計。正式な名称は韓国インターナショナル・サーキット。反時計回りで全長5.615km。ホームストレートを抜け、短い間隔の1、2コーナーを曲がると1.2キロにも及ぶロングストレートが現れる。これは全サーキット中2番目の長さと言われる。続く第2・第3セクターでは様々な角度のコーナーを通る。ここをできるだけ全開で走れるかどうかで力の差が現れるので、ドライバーからの評判が良い。
 韓国GPはサーキットの建設が遅れ、日本GPの段階ではレース開催が正式に決定していないほどであった。イベント直前まで路面の舗装作業が続けられ、イベントが始まってもランオフエリアはアスファルトではなく土のままである。このような万全ではない状態で、東アジアで5カ国目となるグランプリが始まった。予選はアロンソがずっとトップだったのが最後のアタックでレッドブル勢が上回り、ベッテルがPPとなった。ペトロフは前GPの一件で5グリッド降格になる。
 決勝日は雨。排水の不備も重なってレースが難しそうである。予定から10分遅れて、フォーメーションラップは除かれ、セーフティーカー先導という形でレースが始まった。水玉でオンボードカメラが埋め尽くされ前が見えない。しかし降雨によるものではなく、飽くまで水たまりに拠るものである。ハミルトンは無線で必死にレース続行を訴えた。しかし4周目に赤旗中断となった。ここで各車がレインタイヤを交換した。49分後、引き続きSC先導で車が走り出し、18周目に本格的なレースが開始となった。1コーナーで早速、止まりきれないマシン(新チームの面々)が現れた。M.シューマッハがクビサを、N.ロズベルグがハミルトンを抜いた。ベッテル、ウェバー、アロンソ、N.ロズベルグ、ハミルトン、マッサ、バトン、M.シューマッハ、クビサ、バリチェロという順番である。
 翌19周目の12コーナーで、ウェバーが僅かに縁石に乗り上げてスピン! コントロールを失ったまま壁に激突し、流れたところにN.ロズベルグが絡んだ。ポイントリーダーが驚きのリタイヤとなった。真後ろのアロンソも危なかったし、ハミルトンも抜かれたことで命拾いであった。再びSCが出動し、24周目に再開。この間にザウバー勢、ペトロフらがインターミディエイト(浅溝)・タイヤに履き替えた。ベッテル、アロンソ、ハミルトン、マッサ、バトン、M.シューマッハ、クビサ、ヒュルケンベルグ、バリチェロ、スーティルというトップ10である。
 すぐにトゥルーリとB.セナが接触して、Fウイングが路面に落ちた。26周目、小林可夢偉が山本左近を攻めるうちにコースオフを喫した。浅溝タイヤはまだ厳しい状況のようである。27周目、M.シューマッハがバトンを抜いた。翌周バトンはインターに履き替え、15位まで脱落した。29周目、可夢偉の目の前でコバライネンが、続くコーナーでスーティルが立て続けにスピンした(共に復帰)。31周目、ブエミがグロックに激しく追突し、両者リタイヤとなった。再びSCが出動し、各車一斉にインターに履き替える。ベッテルとアロンソの先頭2台がタイミングを逃した。クビサ・チームがピットレーンでまたニアミスを起こした。ベッテル、アロンソが1周遅れでタイヤ交換に来た。アロンソの作業が上手くいかず、ハミルトンの先行を許すことになった。ベッテル、ハミルトン、アロンソ、マッサ、M.シューマッハ、バリチェロ、ペトロフ、ヒュルケンベルグ、クビサ、小林可夢偉という順番で安全走行。
 35周目にレースが再開した。ハミルトンが1コーナーを曲がりきれない。アロンソが労せず2位に復位した。36周目、可夢偉がリウッツィに抜かれ入賞圏外に落ちた。バトンがコースオフ。38周目、可夢偉とスーティルがバトルを演じ、スーティルが大きくコースオフした。41周目、最終コーナーでペトロフがクラッシュしリタイヤとなった。
 レース後半、サーキットに夕暮れの光が差し込めた。水しぶきはもうない。ベッテルとアロンソの先頭争いにハミルトンはついていけない。しかし状況は一変する。ベッテルのマシンのエンジンがおかしくなりスローダウン、夕暮れの景色に白い煙を加えた。前日は天下であったレッドブル勢だが、2台ともリタイヤとなった。47周目、ロングストレート上で可夢偉とスーティルが順位を争い、スーティルが高速で可夢偉に接触して滑っていきリタイヤとなった。アロンソ、ハミルトン、マッサ、M.シューマッハ、バリチェロ、ヒュルケンベルグ、クビサ、リウッツィ、小林可夢偉、ハイドフェルド。
 引き続きスピン・コースオフするマシンが続出する。51周目、ヒュルケンベルグがその影響でパンクし、ピットイン。翌周、バリチェロもコースオフで後退した。後方ではバトンが2度目の単独スピン。タイトル争いの生き残りがかかる場面で、憑き物が落ちたように酷いレース内容となった。レース終盤、日没を迎えて辺りは暗さを増し、再び視認性の問題が浮上した。"照明のないナイトレース"とはリウッツィの談である。最終周、ヒュルケンベルグがアルグエルスアリを抜き、入賞圏内に復帰した。アロンソがガッツポーズでチェッカーを受けた、、、はずなのだがスタッフが旗を振り忘れるハプニングが起きた。
 2時間48分というレースが終わった。同じように雨中の初開催であった1976年富士の日本GPが思い出される。1時間弱の中断があり、レースの約半分をSCが率い、ラップタイムも1分50秒〜2分であったため、真っ暗な景色のなかでの表彰となった。加えて、初開催で雨で路面状態も悪いという、ドライバーには過酷な条件が勢ぞろいしたレースであった。マシンは泥で汚れ、コースの未完性さを表していた。しかしアロンソは抜群の勝負強さを示して勝利し、半年ぶりにランキング首位に返り咲いた。同じく春にポイントリーダーであったバトンは、タイトルの可能性を(事実上)失った。4人が1勝分のポイント差で集中したまま、残り2戦の連続開催を迎える。M.シューマッハが復帰後最高位の4位。危険な衝突を引き起こしたスーティルとブエミに、次戦の5グリッド降格の処分が下された。

 ■ 11月7日 第18戦 ブラジル
 場合によってはアロンソのタイトルが決まる。予選は雨に見舞われた。コースが乾いていく難しいコンディションの中、ウィリアムズのヒュルケンベルグがPPに輝いた。18戦目で初のPPで、2位以下のレッドブル勢を1秒以上も離している。タイミングよく1周で決めたというのでは全くなく、皆がイコール・コンディションの中を走って初めから速く、しかも1秒ごとにタイムを更新していった。他のドライバーもレース関係者も全員が驚きと賛辞を述べた快走であった。彼の下にタイトル争いの4人が並ぶ。クリエンがギアボックスを交換し、ピットスタートを選んだ。
 決勝は晴れ。スタートでベッテルがヒュルケンベルグを凌駕した。ウェバーもコーナーでこれを攻略、いきなりワンツー体制を築いた。ベッテル、ウェバー、ヒュルケンベルグ、ハミルトン、アロンソ、クビサ、バリチェロ、マッサ、M.シューマッハ、バトン。
 2周目にアロンソがハミルトンを抜いた。7周目、ヒュルケンベルグも抜く。しかしレッドブル勢は7秒ほど前である。11周目、バトンがハードタイヤに交換。翌周からバリチェロ、マッサ、ヒュルケンベルグ等、続々とピット作業が行われた。ハミルトンはヒュルケンベルグを抜けないため、上位との差が開いた。ベッテルとウェバーの差が2.5秒ほどで推移している。20周目にハミルトンがピットイン。ベッテル、ウェバー、アロンソ、N.ロズベルグ、小林可夢偉、ハミルトン、バトン、スーティル、M.シューマッハ、ヒュルケンベルグの順である。
 24〜26周頃にアロンソやレッドブル勢がピットインした。小林可夢偉がマクラーレン勢に抜かれた。34周目、バリチェロがアルグエルスアリと接触してパンクを喫した。
 レース中盤、レッドブル勢の速さは磐石で、トラブルが無ければ勝利は固いように見える。そしてベッテルがウェバーに順位を譲るかどうかに注目が集まった。そうすればウェバーに自力タイトルの可能性が残るからである。しかし、今の順位のままでは二人とも自力でタイトルを獲ることは出来なくなる。最終戦でアロンソの脱落を頼ることになるのだ。40周目の順位は、ベッテル、ウェバー、アロンソ、ハミルトン、バトン、N.ロズベルグ、小林可夢偉(未)、スーティル(未)、M.シューマッハ、ヒュルケンベルグ。
 48周目、小林可夢偉がピットイン。15位で復帰した。51周目、2コーナー付近でリウッツィがクラッシュし、セーフティーカー出動の事態となった。スーティル、マクラーレン勢、N.ロズベルグらがピットインしてタイヤを交換した。ベッテル、ウェバー、アロンソ、ハミルトン、バトン、M.シューマッハ、N.ロズベルグ、ヒュルケンベルグ、クビサ、アルグエルスアリ。
 56周目にレースが再開した。ベッテルがウェバーとの差を早速2秒ほどに取り戻した。小林可夢偉がブエミをパスして11位へ。タイヤの違いからM.シューマッハがN.ロズベルグに順位を譲った。60周目、ブエミと接触してマッサがコースオフ。2年ぶりの母国GPだが、あまり元気な姿を見せられない。66周目、可夢偉がアルグエルスアリをも抜いて入賞圏内に入った。
 以降、順位変動はなくチェッカーが振られた。レッドブルの今季4回目のワンツーフィニッシュで、コンストラクターズタイトルが決定した。2005年の参戦から6シーズン目での快挙である。去年のブラウンGPに続いて、比較的新しいチームがシーズンを初制覇する結果となった。ウェバーは結局順位を譲られることはなかった。「チームの哲学として受け入れる」とコメントを述べた。どちらにもタイトルの可能性があるうちはチームオーダーは必要ないと個人的に思う。
 時間が前後するが、本戦では武装集団による襲撃が目立った。バトンとハミルトンを乗せた帰宅(ホテルへの)中の車が襲われかけたし、ザウバーのエンジニアはリュックを奪われた。いずれもマシンガンを手にした5、6人の集団であったという。
 また、日本でのフジテレビの放映は、予選・決勝ともプロ野球の日本シリーズが延長戦になったことの影響を大きく受けた。数時間放送を繰り下げた結果、深夜に放送が始まり朝方に終わるという在様で、観戦を断念した人もいた。

 ■ 11月14日 最終の第19戦 アブダビ
 4人がタイトルの可能性を持って最終戦に臨むのは史上初の事態である。複雑すぎて詳細は述べられないが、アロンソが一歩抜け出た有利な立場にある。ハミルトンは勝つしかない。ベッテルも事実上同様であろう。
 予選ではベッテルが今季10回目のPPで、ハミルトンが2位、アロンソが3位となった。マクラーレンが速さを取り戻しバトンも4位。ウェバーは5位に沈んだ。
 決勝は今年もトワイライトレースとなる。緊迫の決勝がはじまると、まずバトンがアロンソを抜いた。M.シューマッハがスピンし、リウッツィが思い切り乗り上げた。ヘルメットのすぐ側をマシンが掠める危険な事故であった。2台ともリタイアで、セーフティーカー出動の事態となった。2人は無事でサバサバとマシンを降りた。M.シューマッハにとっては、フル参戦で初めて表彰台なしという一年になった。ベッテル、ハミルトン、バトン、アロンソ、ウェバー、マッサ、バリチェロ、N.ロズベルグ、小林可夢偉、スーティルで安全走行する。しかしN.ロズベルグやペトロフ、アルグエルスアリらがピットインした。早めにタイヤ交換義務を済ませて上位進出する作戦である。
 6周目にレース再開。直後、クビサがスーティルを抜いた。そのままベッテル、ハミルトン、バトン、アロンソ、ウェバー、マッサ、バリチェロ、小林可夢偉、クビサ、スーティルの順でレースが進む。ベッテルとハミルトンが1〜2秒差、そこから2.5秒差でバトン、1.5秒差でアロンソというタイム差である。11周目、ペースが上がらないのを見てウェバーがピットイン、16位で復帰した。ベッテルとハミルトンの差が若干縮まった。フェラーリのクルーがピットに出たり戻ったりと作戦を迷っている。
 13周目、マッサがピットに呼ばれタイヤを交換。おそらくウェバーをブロックする目的なのだろう。実際このときまでウェバーはアルグエルスアリに詰まっていたが、マッサの作業中に前に出た。マッサは彼らの後ろで復帰し、ウェバーの牽制は完全に失敗となった。すると、翌周にはアロンソ自身がピットインしてきた。そして上手くウェバーの前で復帰できた。…のはいいものの、N.ロズベルグとペトロフの後塵を拝すことになった。18周目、バリチェロがピットイン。こうしてアロンソとウェバーが下位集団に揉まれることになった。ベッテルとハミルトンが二人との見かけ上の差をどんどん広げていく。以下、バトン、小林可夢偉、クビサ、スーティル、ブエミ、N.ロズベルグ、ヒュルケンベルグ、ペトロフと続く。
 23周目、アロンソが前のペトロフに仕掛け、小さくコースオフ。同周回、ハミルトンがピットイン。翌周にベッテルがピットイン。彼の復帰位置が影響し、小林可夢偉がクビサに抜かれた。27周目、ハミルトンも可夢偉を抜いた。バトン(未)、ベッテル、クビサ(未)、ハミルトン、小林可夢偉(未)、スーティル(未)、ブエミ(未)、N.ロズベルグ、ヒュルケンベルグ(未)、ペトロフというトップ10。ウェバーは小さなコースオフを喫するなど調子が上がらない。
 33周目、ハミルトンは未だクビサを抜けない。アロンソもペトロフを抜けない。34周目、小林可夢偉がピットイン。40周目、バトンがピットイン。この時点で、ベッテル、クビサ(未)、ハミルトン、バトン、スーティル(未)、N.ロズベルグ、ペトロフ、アロンソ、ウェバー、アルグエルスアリという順番である。アロンソは実質6位であり、このままではタイトルをベッテルに奪われる。ウェバーはもっと苦しく、もはや脱落を認めなくてはならない。
 47周目、クビサがピットイン、ペトロフの前で復帰した。ベッテルが快調に飛ばす。このままなら彼の大逆転である。アロンソは焦りからか何度も小さなコースオフを繰り返した。54周目、トゥルーリのパーツが落ちたが、波乱に繋がったりはしない。
 そのままの順位でレースが終わった。結局、ウェバーはシーズン後半に陥った速さの陰りから抜け出せず、本戦で特に力を発揮できなかった。アロンソはそのウェバーを意識して共に下位に沈み、ペトロフを最後まで抜きあぐねた。ハミルトンは最終戦は速かったものの、築き上げたポイントが足りなすぎた。そうして、ベッテルがシーズン後半初のランキング首位に踊り出たところで、タイトルが彼のものになった。最年少のPP、優勝に続いて、とうとうシーズンの覇者までも最年少で達成した。
 また、ブリジストンにとっては本戦は最後の一戦となる。1997年の初参戦から計3600台近くのマシンにタイヤを供給し、174の勝利をあげた。初期はグッドイヤー、続いて2005年までミシュランとタイヤの技術を争い、以後は独占供給を続けた。そんな14年の歴史に幕が降ろされた。

 ■ シーズン後
開催数覇者得点シェア勝率PP率FL率LD率 最多勝PP王FL王LD王
19S.ベッテル13.3%.263 .526.158 35.1%S.ベッテル
F.アロンソ
.263S.ベッテル.526F.アロンソ
L.ハミルトン
.263 S.ベッテル35.1%

2010年ポイント推移の図

 5人によるタイトル争いはかつてない例である。閉幕を迎え、シーズン全体を見渡して、なぜベッテルがタイトルを獲れて他の者は獲れなかったのか、どの場面で誰それのあの判断がどうだったから、、、などといろいろな想像が膨らむ。しかし、あれこれ結論づけることは常人には到底できそうにない、そんな複雑なタイトル争いであった。
 大雑把に出来事だけ振り返ると、、、アロンソの移籍初勝利に始まり、バトンの雨中のミラクルが2回。その後レッドブルが速さを見せて、ウェバーが首位へ。しかしベッテルとの絡みもあって勢いに乗れず、ハミルトンが漁夫の利で先頭に浮上。バトンも後ろにつく。ミス連発で沈んでいたアロンソだったが、ドイツでのマッサのアシストで復活。ベルギーで2人に絞られたと思ったが、アロンソが驚異の力強さで巻き返しを連発。次第にマクラーレン勢が速さを失っていくなか、ベッテルも驚異の速さで勝利を重ねる。
 …というところだろうか。各ドライバーに最低でも数回は不味いレースがあった。
 ネットのある場所ではこんな感想が述べられた。「人生には上り坂、下り坂、まさかの三つの坂があるというけれど、今年は5人とも三つを走破したね、繰り返し何遍も…」。
 大きく変わったポイント制度の元年、チャンピオンの得点シェアとしてはかなり低いものである。1982年、1981年に次ぐ低さである。しかし、誰も低レベルの争いだったとは言わないだろう。PP率が5割を超えたのは2001年以来のことで、これは胸を張って評価してよいだろう。最多勝者の勝率は1982年以来の低さで、やはり混戦を物語っている。
 12月、M.ウェバーがシーズン終盤に負傷を抱えていたことが明らかになった。シンガポールGP後、自身が主催するチャリティイベントでマウンテンバイクに乗っているときに右肩を骨折したと著書で明かした。このことはチームに知らされておらず、チーム代表のC.ホーナーは困惑の表情を示した。彼が最後4戦に失速したのはこのケガが原因なのかもしれない。
 ブリジストンに変わるタイヤ供給元としてイタリアのピレリが名乗りでて、6月に正式に決定した。最終戦後、早速テストが行われ、各チーム/ドライバーが感触を確かめた。同社がF1にタイヤを供給するのは1991年以来20年ぶりのこととなる。

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